42歳、AI翻訳の波に抗わず「乗った」男。翻訳者からグローバル戦略職へ、年収300万UPの生存戦略

「DeepLで十分じゃないですか?」──クライアントからのその一言が、私のプライドを砕きました。

翻訳者として15年。技術翻訳のプロとして生きてきましたが、AI翻訳の精度向上と共に単価は暴落。「自分はAIの尻拭い(修正)をするだけの存在になるのか」。そんな恐怖を抱いた42歳の男性が選んだ道は、翻訳スキルを捨てて異業種に行くことではなく、AIには不可能な「文脈と文化の翻訳(ローカリゼーション)」という領域へ進化することでした。

「言葉を置き換える人」から「ビジネスを現地化する人」へ。年収550万から850万へV字回復した、ミドルエイジの生存戦略をお伝えします。

人物プロフィール

年齢:42歳
性別:男性
転職前:翻訳会社/テクニカル翻訳者(フリーランス兼務)
転職後:外資系IT企業/ローカリゼーション・マネージャー
転職前年収:550万
転職後年収:850万
転職動機・テーマ:AI自動翻訳の台頭による単価下落と将来性への不安から、語学力×ビジネス理解を武器にする上流工程(ローカリゼーション)へシフト。

ざっくりまとめると

・42歳男性。技術翻訳者として15年のキャリアを持つが、AI翻訳の影響で単価が暴落。
・「言葉の変換」ではなく「文化の適応(ローカリゼーション)」に活路を見出す。
・履歴書を「翻訳実績」から「ビジネス貢献実績」へ書き換え、外資系企業の日本進出担当へ。
・年収300万UPで転職成功。現在はAIを部下として使いこなし、戦略立案に注力。
・「AIに仕事を奪われる」のではなく「AIを使って仕事のレベルを上げた」事例。

転職前のキャリアと悩み

「“正しく訳す”だけなら、もう人間はいらないと言われた気がした。」
大学卒業後、翻訳会社を経て30代で独立。IT・技術分野の翻訳者として実績を積んできました。しかし、ここ数年の変化は残酷でした。以前なら1文字15円だった案件が、AI翻訳の下訳ありきで5円まで買い叩かれる。「これ、AIが訳したものを直すだけでいいんで」と言われる仕事が増え、自分の仕事が「翻訳」から「機械の検品作業」に成り下がったように感じていました。

年収はピーク時の700万から550万へ下落。徹夜で納期に間に合わせても、クライアントからは「DeepLなら一瞬なんですけどね」と嫌味を言われる始末。40代に入り、体力も落ちる中で、「このままではジリ貧だ。でも、語学以外に何のスキルもない自分がどこへ行けるのか」という焦燥感で眠れない夜が続いていました。

転職を意識したきっかけ

「AIは“文字”は訳せるが、“商売”は訳せない。」
転機は、ある米国ベンチャーの日本進出プロジェクトを手伝った時です。彼らのプレスリリースをAIで翻訳したものは、文法は完璧でしたが、日本人の心には全く響かない「冷たい文章」でした。私は独断で、原文のニュアンスを大幅に変え、日本的な「情緒」を加えた意訳を提案しました。

すると、担当者から「これだよ! AIにはこの“行間の温度感”が出せないんだ!」と絶賛されました。その時、気づいたのです。これからの時代、ただ言語を変換する作業はAIに奪われる。しかし、現地の文化に合わせて商品やメッセージを最適化する「ローカリゼーション」と、ビジネスを成功させるための「戦略的な言葉選び」は、人間にしかできない高付加価値な仕事になると。

転職活動内容

「“翻訳者”の看板を下ろし、“市場開拓のパートナー”として売り込んだ。」
転職活動では、履歴書の「翻訳経験」の見せ方をガラリと変えました。「マニュアルを〇〇冊翻訳しました」という作業量の誇示はやめ、「英語の資料を、日本人が購入したくなるマーケティング文書に再構築し、売上に貢献しました」という“ビジネス成果”を強調しました。

利用したのはハイクラス向けのエージェントと、LinkedIn(リンクトイン)です。特にLinkedInでは、プロフィールを「Translator」から「Localization Specialist」に変更。すると、日本進出を狙う外資系企業や、海外展開を狙う日系SaaS企業からのスカウトが届くようになりました。面接では「AI翻訳は積極的に使いましょう。コストが浮きます。その分、浮いた予算を“どう売るか”の戦略に使いましょう」と提案。AIを敵ではなく「コスト削減の武器」として味方につける姿勢が、経営層に高く評価されました。

意思決定のポイント/自分の市場価値

「言葉の職人から、プロジェクトの司令塔へ。」
最終的に、日本市場に本格参入する外資系IT企業(SaaS)の「ローカリゼーション・マネージャー」として入社を決めました。提示年収は850万円。翻訳者時代から300万円アップです。

この会社に決めた理由は、彼らが求めていたのが「英語ができる人」ではなく「日本市場を知り尽くした水先案内人」だったからです。他の候補者は「TOEIC満点」などをアピールしていましたが、私は「御社の製品UIは、日本の商習慣だと違和感があるため、こう変えるべきだ」と具体的に指摘しました。この“翻訳を超えた踏み込み”こそが、私の新しい市場価値でした。逆に、単なる翻訳チェッカーを求めている企業は、今後AIに置き換わるリスクが高いと判断し、辞退しました。

内定・転職後の変化

「AIに下書きさせ、人間が魂を吹き込む。」
現在は、本国の開発チームと連携し、製品の日本語版開発やマーケティング戦略の立案を行っています。実際の翻訳作業の8割はAIに任せています。私の仕事は、AIが出したアウトプットに対し、「この表現は日本のユーザーには失礼にならないか?」「もっと親しみやすい言い回しはないか?」という“最後の1マイル”の調整を行うこと、そして本国と交渉することです。

単価に怯える日々は終わりました。「あなたがいないと日本でビジネスができない」と頼られるやりがいは、何物にも代えがたいです。AI時代だからこそ、「人間にしかわからない機微」を扱えることの価値が上がっていると実感しています。

メッセージと総括

「“語学屋”で終わるな。“ビジネス屋”になれ。」
翻訳や通訳、ライターなど、言葉を扱う仕事をしている方へ。AIの進化を恐れる必要はありません。ただし、「正確に変換する」ことの価値は限りなくゼロに近づきます。生き残る道は、言葉の向こうにある「背景」や「目的」を理解し、ビジネスを動かす側(マネジメント側)に回ることです。

転職活動では、エージェントに相談して「自分のスキルをビジネス用語で再定義」してもらうことが重要です。また、これからの時代は「AIを使える」ことが前提スキルになるので、面接ではAI活用をポジティブに語ってください。語学力という強力な武器を捨てず、使い方を変えるだけで、あなたの市場価値は劇的に跳ね上がります。

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