診断するだけでは守れないものがあると知った|精神科から児童思春期へ軸足を移した34歳医師の転職

今回ご紹介するのは、精神科の勤務医として成人症例を中心に診療していた34歳男性医師が、児童思春期精神医療へ転職した事例です。
外から見ると同じ精神科領域の中の異動に見えるかもしれませんが、本人にとっては診療対象が変わるだけではありません。本人は「症状を整える医療」から「環境と発達を含めて守る医療」へ責任の置き方を変える目的で意思決定しています。

人物プロフィール

年齢:34歳
性別:男性
転職前:総合病院/精神科(成人外来・病棟・救急コンサルト)
転職後:児童思春期精神科クリニック(医療法人)/児童思春期外来(必要に応じて多職種連携)
転職前年収:1,500万円(当直・各種手当込み)
転職後年収:1,450万円(当直少+役割手当想定)
転職動機・テーマ:症状の安定だけでなく、発達背景や家庭・学校環境まで含めて介入し、再発や二次障害を防ぐ医療に深く関わりたかったため。医成人精神科から児童思春期へ。医師としての責任の置き方を「症状管理」から「環境調整と発達支援」へ移した転身。

ざっくりまとめると

・私は成人精神科で、診断、薬物療法、入院治療、再発予防の設計に携わってきました。

・ただ、経験を積むほどに、成人期に表面化した課題の背景に「学齢期からの支援不足」や「環境要因の積み残し」があると感じる場面が増えました。

・転職の軸は、働き方の変更ではなく、医師として“介入するタイミング”を早め、二次障害を防ぐ医療に踏み込むことでした。

・児童思春期では、診断と薬だけではなく、学校・家庭・支援機関との調整が診療の一部となり、医療の見え方が変わりました。

転職前のキャリアと悩み

私は総合病院の精神科で、成人外来と病棟を中心に担当していました。
うつ病、不安障害、双極性障害、統合失調症、依存、発達特性を背景にした適応障害など、いわゆる成人精神科の幅広い症例に対応していました。救急搬送や他科入院中のせん妄・自殺企図のコンサルトもあり、医師としての判断力が鍛えられる環境でした。

成人精神科の臨床には、明確な面白さがあります。
症状を見立て、診断を組み立て、薬物療法や精神療法の方針を決め、再発予防の計画を立てる。
短期で整えるだけでなく、半年〜数年単位で再燃を防ぎ、生活を立て直す支援が求められます。私はこの仕事に手応えがありました。

一方で、年数を重ねるほどに、ある種の“積み残し”が気になるようになりました。
成人期に症状が重くなって初めて受診する方の中には、学生時代から不登校、いじめ、家庭内不和、発達特性によるつまずきがあった方も少なくありません。
話を聞くほど、「もっと早い段階で支援が入っていれば、ここまでこじれなかった可能性がある」と感じる場面が増えていきました。

成人精神科では、起きてしまった症状や崩れた生活を立て直すことが中心になります。
もちろんそれは重要です。ただ、私は次第に「立て直す医療」だけではなく、「崩れないように守る医療」にも責任を持ちたいと思うようになりました。

転職を意識したきっかけ

転職を強く意識したのは、20代後半で重い抑うつ状態になり、休職を繰り返す患者さんを担当したことがきっかけです。
診断としては、気分症状に加えて、発達特性や対人認知の偏りが背景にあり、職場の環境調整が必要なケースでした。

治療を進めながら、本人の生育歴を丁寧に辿ると、小中学校の頃から困りごとがあったことが分かりました。

・友人関係が続かない
・集団活動が苦手
・こだわりが強く衝突しやすい
・家庭内で安心できる時間が少ない
・学校への相談は一度も適切に繋がっていない

本人は努力で乗り切ってきたものの、社会に出て責任が増えるほど限界が来て、成人期に症状が噴き出していました。
私はその方に対して最善を尽くしましたが、同時に強く思いました。
この方の苦しさは、今始まったものではない。もっと前から積み上がっていた。
もし学齢期に支援が入っていれば、少なくとも“ここまで”にはならなかったかもしれない、と。

この経験を境に、私の中で問いが変わりました。
「どう整えるか」だけではなく、**「どう守るか」**を仕事の中心にしたい。
そのためには、介入のタイミングを前にずらし、児童思春期から関わる必要があると考えるようになりました。

転職活動内容

転職活動では、まず「児童思春期精神医療で何をやりたいか」を具体化しました。
児童思春期は、成人精神科と違って、患者本人だけを診れば完結しません。
学校、家庭、福祉、発達支援、行政、場合によっては司法も関わります。私はここを理解した上で、転職先を選ぶ必要があると考えました。

その上で、転職先を見るときに重視したのは次の点です。

・診断・投薬だけでなく、環境調整(学校連携、家族支援)を診療として扱っているか
・心理職、SW、看護など多職種と連携できる体制があるか
・初診枠の取り方、再診の設計が、長期フォローに耐える運用になっているか
・“不登校”“いじめ”“発達特性”“家庭課題”など複合課題に対応できるか
・研修・スーパービジョンがあり、児童思春期の型を学べるか

面接では、「成人精神科で十分ではないのか」と聞かれました。
私は成人精神科を否定していませんし、成人で救えることも多いと考えています。
その上で、自分が次に担いたいのは、成人期に崩れる前に支える仕事だと説明しました。
成人の治療経験を持った医師だからこそ、“将来どこで詰まるか”を想像しながら介入できる、と伝えました。

意思決定のポイント/自分の市場価値

転職を決める時、私が見ていたのは3つです。

1つ目は、児童思春期が“診断と薬”だけで終わらない構造になっているかです。
私は症状を整えることも大切ですが、それ以上に、環境調整と再発予防の設計に関わりたいと考えていました。そこに時間を使える体制があるかを重視しました。

2つ目は、多職種連携が機能しているかです。
児童思春期の支援は、医師だけで完結しません。心理職、SW、学校との連携が形骸化していないかを見ました。

3つ目は、成人精神科で培った経験が、児童思春期で活きる場面があるかです。
私は成人症例で“二次障害”や“社会適応の破綻”を多く見てきました。その経験を、予防と早期介入に転用したいと考えていました。そこを評価してくれる環境かを重視しました。

自分の市場価値は「成人精神科医」ではなく、
成人期に起こり得る破綻を見越して、学齢期から支援の優先順位を付けられる医師だと整理しました。
児童思春期では、この視点が介入の質を上げると考えました。

内定・転職後の変化

転職後にまず感じたのは、診療の“対象”が一気に広がることです。
成人精神科では、本人の症状と生活が中心です。
児童思春期では、本人だけでなく、家庭、学校、支援機関がセットで診療の対象になります。

その分、診療の難しさも増えました。
薬を調整すれば解決する話ではないことが多いです。
家庭のコミュニケーション、学校の理解、発達特性に合わせた学習環境、本人の自尊感情など、複数の要素が絡みます。

ただ、その難しさは、私が求めていた種類の難しさでもありました。
“症状を抑える”だけでなく、“悪化させない環境”を作ることが診療の一部になる。
この働き方には、成人精神科とは違う手応えがあります。

また、成果の見え方も変わりました。
成人精神科では、休職から復職までの回復が分かりやすい成果になります。
児童思春期では、登校の再開、家庭内の衝突の減少、自己否定の改善など、じわじわ積み上がる変化が多いです。
その変化は地味ですが、人生の長い時間に影響します。私はそこに価値を感じています。

メッセージと総括

この転職は、精神科を変えたというより、精神科の中で“介入のタイミング”を変えた転職でした。
成人期に表面化する問題の多くは、学齢期からの積み残しの上に乗っています。私はそこに医師として関わりたいと思いました。

児童思春期は、簡単な領域ではありません。
診断・薬物療法だけでなく、環境調整、多職種連携、家族支援が必要です。
ただ、その分だけ、二次障害を防ぎ、人生の選択肢を守れる可能性があります。

成人精神科で見てきた“崩れた後の苦しさ”を、児童思春期では“崩れない支援”に転用したい。
私にとっては、そのための転職でした。

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