32歳 CGスペシャリストからアートディレクターへ裁量拡大の挑戦
家庭用ゲーム機向けのグラフィックに特化した大手ゲーム開発会社で、CGスペシャリストとしてキャリアを積んできた彼が、次に選んだのは、競合ゲーム会社での「アートディレクター」ポジションでした。グラフィック制作の専門性を活かしながらも、ビジュアル戦略や組織設計といった“裁量”のある役割へステップアップしたい――そんな思いが、彼の転職の原動力です。
新たな職場では、家庭用ゲームに加えクラウドゲームのビジュアル統括も担い、年収は前職と同水準を維持しながらポジションを大きく引き上げました。アートチームの体制構築から予算管理、外部パートナー連携までを担うことで、これまでの制作現場中心から“事業を動かすクリエイティブリーダー”へと役割が変わっています。
大企業の枠を出て「自分で方向性を描いて動かす」経験に踏み出した彼が感じた葛藤と成長を、本事例ではリアルにお伝えします。
人物プロフィール
年齢:32歳
性別:男性
転職前:大手ゲーム会社/CGスペシャリスト(家庭用ゲーム機向けグラフィック制作)
転職後:競合ゲーム会社/アートディレクター(家庭用+クラウドゲーム向け)
転職前年収:900万
転職後年収:900万
転職動機・テーマ:より大きな裁量を求めて事業責任に近づきたい、デザインからビジネスインパクトを出せる環境へ
ざっくりまとめると
・家庭用ゲーム機向けのグラフィック制作に特化した大手ゲーム会社でCGスペシャリストとして経験を積む
・プロセスの仕組み化や修正対応が多く、クリエイティブ面での裁量に限界を感じ始める
・「ビジュアル戦略やアート方向性を自ら設計したい」という思いから転職を意識
・競合ゲーム会社のアートディレクター職へ転職し、年収は据え置きながらポジションと裁量を拡大
・家庭用ゲームに加えクラウドゲームのビジュアル統括を担当し、チーム体制や予算・品質管理も担う
・裁量の大きさと影響範囲の広さに満足する一方、責任の重さや負荷の高さも実感している
転職前のキャリアと悩み
【“職能特化”の壁と、自分の“影響力”へのジレンマ】
私が勤めていたのは、国内外で愛されるキャラクターIPを数多く抱え、家庭用ゲーム機向けタイトルを多数リリースしている大手ゲーム会社でした。そこで私はCGスペシャリストとして、長年グラフィック制作の最前線に立ち、キャラクターモデルや背景、エフェクトなど、プレイヤー体験を支えるビジュアルのクオリティ向上に取り組んできました。世界中のユーザーに届く作品づくりに関われることは、大きな誇りでもありました。
一方で、年次が上がるにつれて強くなっていったのが、「自分の影響力の範囲」に対するジレンマです。タイトル規模が大きく、関係部署も多いため、ビジュアルの方向性や仕様の最終判断は、どうしても上位のディレクターやプロデューサーに委ねられます。私は提案こそできるものの、決定権を持たない立場であることが多く、「自分のアイデアが採用されてもされなくても、最終的な絵作りは他者に左右される」というもどかしさを感じていました。
また、業務の大半は「決まった仕様の中でいかにクオリティを引き上げるか」という職能特化型の役割でした。専門性を磨く一方で、「このままでは、いつまでも“つくる人”のまま終わってしまうのではないか」「アート全体の方向性やチームの体制づくりといった、より上流の仕事に関わるチャンスはどれくらいあるのか」という不安も募っていきました。
待遇面や安定性に大きな不満はありませんでしたが、心のどこかで「もっと広い裁量を持ち、ビジュアルを通じて事業そのものに影響を与える仕事がしたい」という思いが大きくなっていったのです。
転職を意識したきっかけ
【小さな試験的リーダー経験が“もっとやれる”という確信に変わった】
転職を意識し始めたきっかけは、社内で新技術を検証する小規模プロジェクトのリーダーを任されたことでした。次世代機を見据えたグラフィック表現を試すチームで、私は技術検証だけでなく、ビジュアルコンセプトの整理や外部パートナーとの連携、スケジュールの調整など、これまで以上に幅広い役割を担うことになりました。
そこで初めて、「自分が決めた方向性に沿ってチームが動き、その結果が目に見える形でアウトプットとして現れる」感覚を味わいました。上長からも「こういうリードの仕方ができるなら、もっと前に出て良い」と評価を受け、メンバーからも相談される機会が増えました。この経験が、「自分は制作だけでなく、アートディレクションやチーム運営でも価値を出せるのではないか」という確信に変わっていきました。
一方で、そのプロジェクトが一段落すると、再び従来の職能特化の役割に戻りました。リーダー経験はあくまで“試験的”な位置づけであり、正式なポジションや権限として定着するわけではありませんでした。「社内に残りながら徐々に裁量を広げる」という道もありましたが、組織構造やポジションの層の厚さを考えると、自分が本当にやりたい“アート全体を統括する役割”に到達するまでには相当な時間がかかるだろうと感じました。
そのタイミングで、業界内のつながりを通じて、競合ゲーム会社がアートディレクター職を募集していることを知りました。家庭用ゲームに加えてクラウドゲームにも力を入れている企業で、「ビジュアル戦略から組織づくりまで担える人材を求めている」という話を聞き、まさに自分がやりたい役割に近いと感じました。ここから本格的に転職活動を考え始めることになりました。
転職活動内容
【“制作特化”から“リーダー視点”へ。ポートフォリオも提出物も刷新】
転職活動の第一歩として取り組んだのは、自分のキャリアの棚卸しでした。これまでは「どんなタイトルに関わったか」「どんなグラフィックを担当したか」という“作品ベース”の整理が中心でしたが、今回は視点を変え、「どのようにチームに働きかけたか」「どうプロセスを改善したか」といった、リーダー的な関わりも含めて言語化することにしました。
具体的には、これまで携わってきたタイトルの中から、技術的難易度だけでなく、メンバー間の連携や工程改善で貢献できたプロジェクトをピックアップし、「課題 → 自分の役割 → 行動 → 結果」という流れで整理しました。その上で、ポートフォリオも“作品集”から“プロセスとリーダーシップが伝わる構成”へと作り替えました。
転職活動のチャネルは、転職エージェント、スカウトサービス、求人サイトの3つを並行して活用しました。エージェント経由では、これまでの実績をもとにポジションの提案を受けることができ、単なるCGスペシャリストとしてではなく「将来のアートディレクター候補」として紹介してもらえるケースが増えました。一方、スカウトや直接応募では、自分のポートフォリオや考え方に興味を持ってもらった企業と、よりフランクにやり取りできたのが良かったと思います。
面接では、技術的な質問に加え、「アートチームをどう構成するか」「外部パートナーとの連携で意識していることは何か」といった組織・運営寄りのテーマも多く出ました。そこで、これまでの試験的リーダー経験やプロセス改善の事例を具体的に伝えたことで、「制作とマネジメントの両方ができる人材」と評価される場面が増えていき、自分の市場価値の方向性が少しずつクリアになっていきました。
意思決定のポイント/自分の市場価値
【“制作+経営”の設計図がある環境を選んだ】
転職活動全体としては、およそ6カ月ほどの期間でした。その間に複数社の選考を受けましたが、最終的に内定を得たのは、家庭用ゲームとクラウド配信サービスの両方を展開する競合ゲーム会社でした。
この会社を選んだ理由は、大きく3つあります。1つ目は、「アートディレクターとしての役割が明確に定義されていた」ことです。単にグラフィックの品質管理をするだけでなく、ビジュアルコンセプトの策定、タイトル間でのアート方針の統一、外部スタジオとの連携方針など、事業全体の視点を持って動くポジションであることがはっきりしていました。
2つ目は、「クラウドゲームやライブサービス型タイトルなど、新しい領域にも積極的だった」ことです。長期運営を前提としたタイトルでは、定期的なビジュアル刷新やイベント用のアセット制作など、新たなクリエイティブの機会が増えます。そこでアートディレクターとして一貫した世界観をどう維持するか──このテーマに、自分の経験と興味がフィットすると感じました。
3つ目は、「経営層との距離が近く、アートの視点を経営判断に持ち込める」環境だったことです。面接の中で、役員と直接ディスカッションする機会があり、ビジュアルがユーザー体験だけでなくブランド価値にも与える影響について議論できたことが決め手になりました。
書類選考や面接の通過率が高かったのは、「制作力だけでなく、プロセス改善やチーム運営の実績も併せ持つ人材」を求める企業でした。一方、純粋なハイエンドグラフィックだけを追求したいという方針の会社とはあまりマッチせず、選考途中で辞退したケースもあります。最終的に、自分の市場価値は「制作+経営の視点を併せ持つクリエイティブリーダー」だと整理でき、その価値を一番活かせる場所として、今の会社を選ぶことにしました。
内定・転職後の変化
【“影のクリエイター”から“ビジュアルの旗振り役”へ】
転職後、最も大きく変わったのは「自分の決定が、そのままチームとプロダクトに反映される」感覚です。アートディレクターとして、タイトルごとのビジュアルコンセプトを定め、キービジュアルや画面設計の方向性を決める立場になったことで、これまで以上に責任の重さを実感するようになりました。
一方で、その分だけやりがいも増しました。アルファ版の段階からディレクションに入り、UI/UXチームやエンジニアと密に連携しながら、「このタイトルならではの見せ方」を一緒に作っていくプロセスは、大手時代にはなかなか経験できなかったものです。家庭用ゲームだけでなく、クラウド配信サービス向けに最適化したビジュアル設計など、新しいテーマにも挑戦できています。
ポジティブな変化としては、チームメンバーとの関係性も挙げられます。単に指示を出すのではなく、「なぜこの方向性にするのか」「どうすればユーザーにとって気持ちの良い体験になるか」を一緒に考えるスタンスを意識したことで、メンバーからアイデアが出やすい雰囲気になりました。
一方で、ネガティブというほどではありませんが、負荷が増えたのも事実です。制作とマネジメントを両立するため、どうしても業務時間は長くなりがちですし、リリース直前の心理的プレッシャーも大きくなりました。また、タイトルごとに関係者が増えるため、コミュニケーション量も格段に増えました。
それでも、「自分で決めて、自分で責任を持つ」という環境は、今の自分にとって心地よい緊張感があります。長期的には、アート組織全体の育成や、次世代のリーダー候補を育てる仕組みづくりにも取り組みたいと考えています。
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